「まってました、転校生!」を覚えていますか
1985年11月、私は大学生になっていましたが、私の出身小学校の体育館でこの作品の上映会が開かれるということで、見に行ったことがあります。
予告編で、この3月に4代目あばれはっちゃくを卒業した坂詰貴之くんが登場しました。
どこから見ても小学生とは言えないような体格になっていました。
会場にいたこどもたちから、歓声が上がりました。
この時期の小学生たちとは、映像作品としての「あばれはっちゃく」を共有していたのです。
さて、肝心の内容と言えば、旅の一座の小学生男子が各地を転校して回る物語という他は、あまり覚えていません。
本会の次の上映会で何を扱うかを検討していて、この「まってました、転校生!」が浮上しました。
幸い隣の市の図書館に原作が所蔵されており、借りて読んでみることにしました。
1984年6月刊行。
傷も染みも黴の匂いもなく、保存状態は大変良好です。
新刊に遜色がありません。
作者は布勢博一さん。
本業は脚本家で、「男一匹ガキ大将」「熱中時代」「天までとどけ」などの脚本を手掛けていらっしゃいます。
ご自身がこども時代に中国と日本を行き来した体験を基に執筆されているようです。
主人公の下山明は小学校4年生。
1984年の小学校4年生ですから、1974年生まれであると考えられますが、1983年に学習研究社『五年の学習』に掲載されていると言いますから、1972年生まれかもしれません。
服装は冬でも半袖・半ズボンと指定されています。
転校するなり、短い在学期間で効率的に人間関係を作るために、クラスで一番強そうな子と喧嘩をするそうです。
教員仲間が言っていましたが、今の男の子の優しい目付きに比べて、一昔前の男の子の目付きが鋭いのは、よく喧嘩をしたからだそうです。
喧嘩シーンが何回も出て来ます。
児童文学の男性作家は、喧嘩シーンの描写が巧みであることが多いですが、今のこどもは「痛いの嫌いだし、怖いの嫌いだし」と言い出さないでしょうか。
そうして、旅の一座というものが、今のこどもに理解されるかも自信がありません。
私でも実物を見たことがありませんから。
「あばれはっちゃく」の作者・山中恒さんが、『現代こども文化考』の中で、「髷物が今のこどもに受けないのは出版界の通説である」と述べています。
インターネットで、古い作品の代名詞ように言われる作品の作者がそう仰るわけですから、相当の古さであると考えていいでしょう。
今のこどもの親世代の創作ではなく、祖父母世代の創作を紹介することになりますよね。
「時代を超えて普遍的に通用する作品か」という点を検討しなければなりません。